女学生になったというのは、こうも面倒くさいものなのか、とるつ子は溜息をついた。おばあさんが全くうるさいのだったし、一方学校でも目新しいことにぶつかった。
おばあさんは学校着と、うちで着るきものとを区別させた。必ず着かえろ、という。脱いだものは、必ず畳め、という。衣文竹につるしておくのは、柳原みたいだ、と嫌がった。柳原とは町の名で、軒並に古着をつるして売っているという。第一、たたみ付けない着物は、肩山袖山の折り目が崩れて、見苦しい。ぴたりといい気持ちに着ようというなら、畳みつけることから覚えなくてはいけない、という。るつ子は面倒くさくて、音をあげた。するとおばあさんは、ちょっとの辛抱だから覚えといておくれ、と下手に出てたのむ。
着物はいきなり、所かまわずに、ぱあっと脱ぎ散らすものじゃない。引き伸しござか、衣装畳紙かの上で、膝をついて、身から放した順に片寄せながら脱いで行き、これとそれとを換える時は、片肩片肩ずつ滑らせれば、裸をさらすような下司な形にはならない、と教える。るつ子には、それは手品のようなむずかしさである。
「なぜそんなむずかしいことしなくちゃいけないの。立っていてぱっと脱げば、簡単だし、さっぱりしていて気持いいのに。」
「そう、そのほうが簡単で、さっぱりしているだろうよ。一生、ぱぁっと裸に脱いで、またぱあっと裸へぶっかぶる、といった着かたをしていてもいいだものね。ただまぁ、簡単なことしか知らないのと、多少は形よくすることも知っていた上で、簡単にしているのとでは、ちっとは違いもあろうというものさ。おまえさんもこの先、どんな着物をきる人になるんだか、ずっしりしたいいものを着るときを考えてごらん。おかしくないかい、髪もできてる、化粧もしてある、それでぱあっと裸かい。しながよくないねえ。」
「誰も見ていないところで着かえりゃいい。」
「そうだね。でも誰がいてもいなくても、半肩はふだん着、半肩はよそいき、二枚の着物を両方の肩へかけた気持ちは、そりゃ裸が簡単でいいという人にはわかりっこないね。(後略)」