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「ちどり」という着物屋さんを始めました。

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序章
たすきをかける
古着と新品
資産運用2003
母の気概
洗える着物
日本橋三越で
暴力着付け
きものについての本
夏がくる
それは便利か
蕪村 1
子規 1
子規 2
和服の下着
鎌倉に地雷あり
メンチきります
麻布十番にて長年
勉強をする
目指すところ
開襟シャツの男
幸田文「きもの」
意地と人情秤にかけりゃ
下駄遍歴
母の気概2
「箪笥の引き出し」
恐るべし夏大島
雑記帳
着物アタマ
鼻息ふんふん!
はじめての冬支度
亭主の好きな長羽織
名古屋の秘密
防寒中
全ての道楽者に捧ぐ
着物の本再び
白タビーズ
柄タビーズ
暴力着付けのツケ
男とキモノ-雉編-
和装の下着再び
髪留め列伝
お直し戦線異状なし!
夏キモノチャート
拝啓、諸先輩方
東京百貨店考
朝顔市・ほおずき市
竺仙の長板中形
浴衣雑感
浴衣道場
久米島紬・米沢紬
靖子の背中 武家文庫
久米島米沢再び
「きもの随想」
迷走台風泥酔紀行
ほれたはれたの綿薩摩
当世殿方持ち物事情
開けるな キケン!
二回目の冬
当世殿方持ち物事情2
道明の帯締め
冬の小物
奄美紀行1 移動編
奄美紀行2 観光編
和装ブラ ついに!
奄美紀行3 購入編
奄美紀行4 大島紬編
奄美紀行5 最終章
着物情報 おさらい
野球の季節
八丈紀行1 八丈編
八丈紀行2 路傍編
八丈紀行3 驚愕編
八丈紀行4 飲酒編
八丈紀行5 観光編
琉球泥酔布紀行
与那国紀行1 南へ
与那国紀行2 西へ
与那国紀行3 島の
与那国紀行4
ハレの着物、ケのお顔

タイトル

わたしは三人姉妹の末っ子で、子どもの頃からなんとなく、扱いが軽いような気がしてならなかった。姉ふたりには習い事をいくつかさせて、わたしにはナッシング。姉ふたりには振袖を着せて成人式の写真を撮り(それも立派な台紙つき!)、姉ふたりには、姉ふたりには。
わたしに習い事をさせなかったのは、「させたところでどうこうなるもんじゃない」と悟ったのではないかと思う。振袖を着せなかったのは「着せたところでどうこうなるもんじゃない」と悟ったのだろう。なにをどうこうさせたかったのか、皆目見当がつかないのだが、きっとそうだったに違いないと、私が納得するしかない。
大人になりそれぞれが家を出て、自分の人生を歩み始めて、姉は姉、わたしはわたし、と折り合いがついた年頃に、ががびーんと新たなる真実がまたひとつ発覚。姉二人には、訪問着一枚、付け下げニ枚、小紋ニ枚、紬ニ枚、それに夏・冬の喪服を一揃え(当然それらに必要な帯、小物など一式)持たせてあげていたのだ。ががーん。またここでも出たか、「姉二人」!

「でも、おまえにも夏・冬の喪服を誂えてあるんだから、いいじゃない。私が死んだらそれを着て送るんだよ。」

母はそういうが、その台詞はちょっと酷ってもんです。そんな日は、一日でも遅くにきていただきたいと思うばかりです。
親というのは、子どもが生まれる前には産着やらおしめやらを、自分が死ぬときのことを考えそのとき娘が着る喪服まで、あらゆるものの準備をするものなのだね。それにひきかえ、子が親にしてあげることなんてほとんどないのに。

それはさておき、今回の帰省で、母親に浴衣をねだってみた。

「買うのもばかばかしいし、30過ぎた私が着るにはちょっと可愛いすぎる柄が多すぎるし、だからっていいものを着て人込みにも出て行きたくはないし」

そういって、母親の嫁入り道具の桐の箪笥をあけさせた。「浴衣なんてないねぇ」と言いながらも、長女の専門学校時代に作った浴衣が(またもや姉マター!)出てきた。これは、私も覚えていた柄で、今着れば野暮ったいのかもしれないが、普段に着倒す分には問題ないものだろう。 それをさっと抱え、図々しくも末娘は言う、「他にない?」と。
次に出てきたのは、母が30才の頃に作ったという浴衣。白い地に、藍色のレトロな柄の花が散ったもの。これは、私をお腹に宿したあたりに縫われた浴衣じゃないのかしら? それが真っ白な生地もそのままに、引き出しの中から、私に手渡されたときは、大事なものをもらってしまったという重さを感じた。
さらに、桃色の鮫小紋も頂戴した。小紋とは、全体に細かい型押しの柄が繰り返しついているもの。鮫小紋とは、その中でも、鮫の肌のように、小さな水玉が扇の形のようにして染められているもので、遠くから見ると無地に見える。これは、色無地と同じようにして着ることができ、ちょっとだけ格の高い着物。私に息子がいれば入学式に着ていくのだがっ、という類いの着物。
「これはもう、着る機会がない」と母ははっきりといった。
「でも、これは夏のものじゃないからね。秋になってから、きちんとした場所に、きちんと着ていきなよ。これはそういう着物だからね。」。
娘は、まさか、鮫小紋がこんなところで手に入るとは思わなかったので、驚きながら感謝した。いいの? こんなに綺麗な状態のものをもらっていいの? 八掛もこんなに色鮮やかなままだけど本当にいいの?

母は、織物系の着物にはあまり興味がなく、染め物が多いけれど、私はもう染め物には手を出さず、母のものを、そして育ち盛りの子どもがいる姉ふたりのものを(イッシッシ)を借りたり、譲ったりさせてもらうことにしましょう、と、決めました。

母親に新品をいろいろと揃えてもらうよりも、こうやって、箪笥の中身を少しずつ譲り受ける方が、私は、嬉しい。とても嬉しい。


夏至の夜    
2003.06.22

KIMONO MICHI −キモノミチ−着物道−きものみち−2003-2005