女に生まれてよかったなぁとココロから思うのは、もてる鞄の種類が豊富だということです。
毛も生え揃ってない頃、ジェーン・バーキンが、ステッカー貼りまくり・破れ放題のバッグ−エルメスが彼女に贈ったハンドバッグ『バーキン』を持つ写真を見て、「なんて格好いいんだろう! 私が求めている鞄の形はこれよっ! 大人になったら使いたいなぁ」とその値段もどういう鞄かもよく知らずに、西の空の夕日に誓ったワタクシ。若い頃は荷物が少ないことはいいことだと、男のような考えで、財布と鍵と煙草(当時)しか持ち歩かなかったワタクシ。仕事鞄は資料とノートパソコンとえーとえーと、と、45センチ幅のでかい鞄を持つようになったワタクシ。
そんなふうに女性には、高価なものからお手ごろな値段のものまで、かわいいもの、ゴージャスなもの、小脇にかかえるもの、肩からさげるもの、両手でもつもの、いろいろな鞄が用意されている。鞄病になれるくらいの数多の選択肢があるこの喜びよ!
それに反して、殿方たちの鞄市場の脆弱さよ…。
ビジネスの現場で使う鞄にしても、吉田鞄かTUMIか、あるいは日本人の体格にサイズがあってないヴィトンの鞄しかないのか、ととっちめたくなるくらい、選択肢が非常に少ないように見受けられます。
個人的には、男性には、鞄を持つときはできるだけさりげないデザインのもので、尚且つ機能を十分満たすものを持っていただきたい、荷物が少ないときはできれば手ぶらでいていただきたい、という願望があるようです。だって荷物の多い男性って、バッグの中に常にバンドエイドを入れている女の子みたいに、非常事態に備えすぎている感じがするんですもの。
最近は女性だけでなく、和装姿の殿方もよく見かけるようになりました。
先日、夕方の半蔵門線で、白の絣の着物を着た男の子を見ました。髪はぼさぼさだけど印象としては清潔、メガネをかけていてくるりの岸田君のような顔立ち、襦袢の代わりにか着物の下にはヘンリーネックのシャツ、手にはデザイン会社でよく持たされる黒い平べったい鞄と、麻のトートバッグ、そして足元は実にさりげなく西洋の革靴。彼のやりすぎていない、力の入ってない着姿に、「正直やるなぁ!」と目を見張りました。もしかしたら裏原系のおしゃれ男子だったのかもしれません。でもね、でもね、向坂さん、あの着姿は、「うわっ、寝坊しちまった、やっべー着るもんねぇよ! しょうがない、今日はブータンルックでいくか!」と、着物をひっかっけてきて飛び出してきたくらいのさりげなさは、たとえ超綿密な計算の上のものだったとしても、「グッジョブ!」と親指を突き出したくなる姿でした。半蔵門線の彼に幸あれ!
※ブータンルックについては犬子女史のサイトをご覧下さい。
またある日のこと。青の結城で決められた殿方を拝見しました。やはり結城か、しなやかな織物の羽織を着てらして、薄鼠色の羽織紐も凛々しく美しく、職業かなにかで着物を着られている方かと思いました。格好いい! 鼻息も荒くない! やるじゃん! と、思いましたが、彼の手元に目をやったとき「あぁんっ!」と身もだえしたくなりました。だって、だって、だってですね、その方ね、
なんで信玄袋持ってるの?
他に鞄はないの?
どうしてそこで信玄袋なのっ?
一体誰だ、着物男子に信玄袋を持たせようとしてるヤツは?
どうやら殿方たちの間には、「和装のときには信玄袋」という定説が流布しているらしいのです。
彼氏さんが彼女さんに連れられて着物を着るようになり、まずは一揃え揃えましょかとお店に出かけたとき、彼氏さんが「ねーねー、信玄袋は買わなくてもいいの?」と聞いてきたということがよくあるそうなんです(そんな話はニ回しか聞いたことないけど)。
個人的には、和装の男性が美しく見える姿は、お医者さんの鞄−ドクターズバッグか、手ぶらではないかと思います。
お医者さん鞄は、お仕事の関係で和装になる方がよくもっておられるようで、落語家さんらしき人が提げている姿をニ〜三度見たことがあります。お医者さん鞄は、明治大正の和装から洋装に移る時代に、なんとか折り合いをつけるように恐る恐る導入された鞄ではないかと推測します。マチもたっぷりあるし、どっしりした鞄のフォルムが、男性の和装姿とうまくバランスが取れるような気がします。
また、手ぶら派には、煙草入れをオススメしたいと思います。財布の中身を小銭とお札と各種交通機関のプリペイドカードにわけ、鍵と一緒に入れるとちょうどいいサイズです。携帯は帯のあたりに根付をうまく利用して挟み込むとよいです。このとき、折りたたみ式でない携帯電話だとなおよろしかでしょう(今は折りたたみ式でない携帯電話はとても少ないけど)。
信玄袋はマストアイテムではないと思うのですよ。
漫画「サザエさん」を思い出してみてください、着物姿の男性たちは一体どんなふうに荷物を運んでいたか。
ある人は、風呂敷に包んだ見舞いの日本酒を提げ、ある人は手ぶらでステッキをつきながら、お坊さんはスクーターに乗りながら荷物は黒い革の鞄に・・・こうやって振り返ってみると、あの昭和風俗大全ともいえるあの漫画に、信玄袋を持った男性の絵が出ていなかったような気がするのです。
装いの東西を問わず、世にもっと素敵な男性用の鞄が増えますように!
これから着物を着てみようと思う男性が、みなさん独自のセンスで、街を闊歩する時代になりますように!
2004.11.15
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