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連休には実家に帰った。甥っこの初節句の祝いに、松屋で買った赤紫の小紋を持っていった。プラダのなんのやくにもたたねぇと思っていた長方形のボストンバッグが大活躍ー、るるるるー、網棚にのっかるし、着物一式と下駄に竹かごが全部入るよ、るるるのる。
初節句とは、男子の誕生にかこつけて、親兄弟の大人達が顔をあわせ、うまいものを食べたり飲んだりする愉快なイベントのことです。妹のあたくしが着物なんか着ていったら誰が母親かわからなくなる、と姉が難色を示しましたが、そんな乳飲み子を連れたお母さんが着物で余裕かますわけないって料亭の人もわかってらっしゃることですよ、るるる。
それはさておき、実家の座敷に母を呼び、「これを着ようと思って持ってきたの」とその小紋と帯を広げてみた。母は一言「地味! なんでこんな地味なのを買うの!」と。着物を持って帰ると告げたとき、母親の頭にどんな着物が思い浮かんだんだろう。(あとから人妻さんが、「おかあさまは、初節句ということで、付け下げみたいにもうちょっと派手なものを考えてたんじゃないかしら?」とメールが。なるほど、なるほど。)
「お姉ちゃんのところに、たっぷりあるからそれを借りな」
「お姉ちゃんって着物きたっけ?」
「持たせたんだよ、嫁入りのときに」
のにー! 聞いてない! 聞いてないわよ!
少々憤慨しながら話の続きを待ってみた。
「●●にも■■にも一揃え作ってやったのよ。喪服と留袖もね。おまえにも喪服だけは作ってあるよ。夏のと冬のを泥染めでね。」
「わたしにないのはどうして?」
「うーん、力尽きちゃったんだよね、ごめんごめん」
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お庭で |
そんなやりとりのあと、父の運転する車で姉の家へ。一旦集合したあと、松本市内のある温泉街の割烹へ。そこは、山いっこ買いあげて作られた庭園で、御主人がせっせと山を切り開きながら今も庭を作っている。まさに終わることのない庭作り。今はツツジとはなみずきがメイン。おぅ、松本城が見えるじゃないか。年に一回横浜ベイスターズ主催で公式戦が行なわれる松本県営球場も見える見える。また中庭が豪壮かつ繊細、そんなところで初節句。ちびっこにはなんのことかわからないでしょうが、今日は御馳走を食べる日。健やかに育てよ、長男みたいな名前の三男坊。
姉の家へ戻りみんなが小休止している間に、姉に桐箪笥をあけてもらった。よく漫画で、宝箱をあけた瞬間べかーっと光るという描写がありますが、あれに近いまぶしさ。薄いピンクの訪問着、付下、小紋が2枚、紬が1枚、黒留袖と夏冬の喪服、それらにあわあせた襦袢に帯、小物の一式。一揃えってほんとうに一揃え! 姉の生涯のさまざまな場面で必要ななものが一式揃っていた。母は、姉がお茶やお花をやるとは考えて無かったようで、そんな無難なものはまったく見当たらなかった。
それにしても、一式!
母は偉大だ。
そんなに余裕のある生活していたとは思えないのに、よくこれだけのものを、姉ふたりに! お母さん、私で力尽きたといってもまったく問題ありませんよ! 子どももいない私がはりきって二人分着てあげるから大丈夫よ!
華やかな訪問着や付下は着ていく場面が想像できなかったので、紬の袷をもらってきた。これを着て、母に写真を送ろうと思う。少しは喜んでくれることだろう。そろそろ暑くなってくるから早く撮らないと、夜はまだまだ袷で十分だけど、昼間はさすがに暑いっすね。
母の頭の中の着物というのは、あのような華やかなハレの日のための着物のようだった。東京ではじみーでエローい色の紬ばかり集めてるんですよ、と伝えたら、また叱られそうだったので黙っていた。もっと母親と話をしておこう、伝えたいことがたくさんあるだろうから、と思った。
それにしても、蛤と袷はよく似た漢字だね。
2003.5.5
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