着物が着たい! とにかく着物を着てどこかにでかけたい! 原宿壱の蔵で一式揃えた赤い紬を前にして、じたらばたらと足をばたつかせていたとき、Mちゃんから狂言・能を見にいきませんかとお誘いが。ふたつへんじで行く行く行くわ、着物を着て港区を出るのはこれがはじめてだけど、なんとかなるに違いないったら違いない。妙な自信を胸に、約束の1時間前から着物を着始める。
だいたい、約束の1時間前っていうのが、ナメてる。たよりは、人妻さんから譲り受けた着物の本、家庭画報社「きものサロン」にある、初心者のための図解「長襦袢の着方」「着物の着方」「お太鼓の結び方」。本人は、写真のとおりにやっているつもりだが、だいたい着物を着た人間の姿をよく知らない。「あそこに帯、あそこに帯〆、あそこに帯あげっていうんだっけ、あのひらひらしたの」程度の記憶力。この余った布(テの部分)はどうすればいいの? お太鼓になるところに入れとけばいいの? これでいいの? すぐ解けそうだけどいいの? 帯〆だってきちんと締められない情けない姿。だけど、それもこれも、全部道行(みちゆき:着物用のコート)の中にかくしてしまえば平気・平気、へいタクシー、あたいを国立能楽堂まで連れてってちょうだいな。
思い出すだけで顔から火がでるような乱暴な着付けででかけたものです。着付けというよりは、『着物という布を、帯という布で、人間の体になんとか巻き付けてみました』という姿。あぁっ、恥ずかしい!
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この時期に描いた絵。
絵まで道行を着せて細部を隠してます。 |
恥ずかしくっても本人は、これでまぁなんとかなってるはずだと無邪気に信じ、能が終わったあと、古着屋の姉さんに着物姿を見せようと、千駄ヶ谷から竹下通りまで歩いていきましたよ。ほんとうに、道行がなかったらどうするつもりだったんでしょうかねぇ、この人は。
お店に入ったら姉さんが目を丸くして、「あんたっ、ちょっとこっちに来なさい」と、手招きし、まず帯をほどき、帯を締め直してくれました。その間「なにこれ?」「あぁ、もう」「うわ、どうしてこれがここに?」「ちょっとぉ!」と何度も何度も彼女は呟いてました。すみません、私が悪かったんです。直してくださってほんとうにありがとうございます。おろろん!
この着物でのお出かけは、恥もかいたが(かいたつもりはまったくないが)、収穫も非常に大きかった! なぜって、着物を着た人間の姿を、自宅にもって帰れたんですもの。写真だけではわからない着付けの完成像を、自宅で注意深くひもとき、帯〆のしめかたを記録し、お太鼓の大きさを記憶し、タレ(お太鼓の下に出てる部分)の長さを測り、それを手帖につけ、記憶記憶記憶!
その日から時間を作って週に一回着付けの練習、時間があれば週に二回。幸い麻布十番には、和服ででかけてもよいごはんやさんがたんとある。ディナーともなればそれなりの格好が必要だろうけど、お昼ご飯なら普段着の赤い紬でもまったく問題なかろう、とそこを目的地にしてまず着物に着慣れることにした。
最初の一ヶ月目は、かなり自信がなく、たまに人妻さんに見直してもらったりした。それが3月。
二ヶ月目は、自分にあったお太鼓の大きさなどがなんとなくわかってきて、まがりなりにもなんとか着られるようになる。しかし伊勢丹の呉服売場では、やはりいろいろと指摘された。これが4月。
そして5月。着物持参の2回の松本小旅行があたいをオトナにしましたね。15分〜20分で着られるようになりました。
ある日のこと、 人妻さんから「今から麻布十番にうどんを食べにいこうかとおもうんだけど」と電話が。「のにー!(From
山田芳裕『大正野郎』)」と唸り、「車で行くから●●分には着くとおもうわ」「ちょうどいい時間っすね」「いやー、今日みたいな日は着物だと暑いわねー」「のにーーーー!!」、その一言を聞いた瞬間、長襦袢に手をのばし肩にひっかけ、時計を見た。あと15分ほどで彼女達が着く。目的地は現在地から徒歩7分ほどのところ。とりゃっとかけ声ひとつ、10分ほどで着て出た。これが私の最短記録。
そういうわけで、着付け学校などで習わなくっても、「きものサロン」一冊と、着物に詳しい先輩の教えを虚心坦懐に聞くココロと、「恥をかいてもあたしは平気、だってみなさんいろいろと教えてくださるんですもの」という図太い神経があればなんとかなるんじゃないかなーとおもいます。着物に詳しい先輩というのが一番ココロ強い存在であることは間違いないのですが、まぁ、そういうわけで、みなさんも是非!
2003.05.08
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