■群ようこ「きものが欲しい」
これは群ようこさんご自身が高校時代に着物が好きになって、それから現代にいたるまでの履歴と、初心者に贈る指南書です。自分で着物を揃えた人の文章は、読んでいてとても共感を得るところがあります。とくに呉服屋さんを選ぶくだりとか。
この呉服屋さんを選ぶくだりは、客と呉服屋という関係に限ったことでなく、客商売をする人間がすべて目を通したほうがいいかもしれません。お客さまからお金をもらう立場にある人間はすべて(というか、まず自分)。
私は潤沢な予算がないので、今は古着屋ばかりを巡ってますが、いつかは、おりゃっと、群さんのように、勝負大島を誂えておきたいものです。その他勝負ポリ、勝負浴衣、勝負帯、勝負帯び揚げ、勝負小紋、勝負襦袢なども。というより、勝負するのは襦袢でだろ(話がそれた)。
■わたせせいぞう「菜」
わたせせいぞうさんが週刊モーニング誌上で1992年から98年まで連載していたカラーの漫画。リアルタイムで読んでいたときは、ぴんとこなかったけど、この年になって読み返すと色が美しい漫画だと素直に感じます。作者の『こんな夫婦がいたらいいなぁー、あー、もー』という思いがひしひしと伝わってきます。この主人公の奥さん「菜」ちゃんが、母の形見の着物を着ているのです。着物を着ていない格好で登場しているのは、海での全裸・海での水着・回想シーンの制服姿だけではなかったでしょうか。6年にわたる連載で、着物以外の姿は、ほんとうに片手で数えられるほどで、つまりそれだけ着物の姿を描き続けられたということ。そして、当然ですが、着物姿がとてもうまい。漫画家さんだからというだけでなく、描かれた皺一つ間違い無いというか、なんというか。
菜さんは華やかなものから、普段着までいろいろと着ていました。全12巻の中に膨大な量の着物姿のサンプルがあるわけで、大変勉強になりまです。
■クロワッサン特別編集「着物の時間」
目玉はクロワッサン本誌で連載されていた「着物の時間」再録! 他にも目玉記事はたくさんあるのだけど、まずこれがすごい。上の「菜」でも書きましたが、とにかく生きた着物好きの、各界の様々な職業の、女性81人の着物の物語がすごい。ひとりひとりのその着物にまつわる物語を読むと、改めて日本が生んだ着物という文化はほんとうにあなどれない。
話がそれますが、着物を着るようになると、自分で片付けもしますから、畳んだりしますよね。一回畳んでみると、着物って合理的な形状の着物だとよくわかります。ぴたっと綺麗に畳み終わって、それを仕舞う箪笥だって合理的なサイズにできあがっている。子どもものも大人ものも女ものも男ものも、ぴたっと反物の幅のサイズに、袖の長さに、畳まる。すばらしい。
しかもその着物がまた合理的。単衣で誂えてから袷に仕立て直すこともできる。「着物として着るのもなんだしなぁ」となったら、コートに、羽織りに仕立て直しがきく、それもなんだなぁとなったら、仕立て直して子どもに、鞄に、敷物に、それもねぇ、となったらさらにさらに小さく小さくなにかに仕立て直していくことができる。最後は、黒猫のちっちゃなおもちゃになったりするわけですよ、すばらしい。
このような長い時間をかけて着物を大切に『使いたおす』背景がなければ、この81の物語は生まれた無かったことでしょう。
よく女性誌でパーティ会場に集まった芸能人の洋服を特集するページがありますが(セレブですって? そんなおとんちきな外来語、あたしゃ使いませんことよ)、あれはよく考えたらまったくつまらないものですな。物語がない。まったくない。「女優の●●●●さんは、シャネルのドレスに、お揃いのシャネルのバッグと鞄」、それだけのこと。その背景には、せいぜい「夫であり俳優の●●●●が出演した大ヒット映画の出演料はこんなところに使われていたわけですね」くらいの物語りしかないでしょう。それはそれでもちろんいいんですけど、そればっかというのもちょっと寂しい話ではないかと。
この本に載ってる岸田今日子さんは、母と叔母と祖母の思い出がつまった色大島を着てるんですけど、それがまた美しいのなんのって!
生きたサンプル(なんだか実もフタも無い表現ですが)を、たくさん楽しむことができる読みごたえありの一冊です。
■本じゃないけど映画「竜馬の妻とその夫の愛人」
竜馬の妻:鈴木京香、その夫:木梨憲武、その愛人:江口洋介、そして中井貴一が登場する三谷作品。時代考証がどれくらい正しいのかわからなかったのだけど、着物姿がおもしろかった。鈴木京香と江口洋介は昭和のはじめの着物イメージだったし、木梨憲武はそのまま平成の人だったように見えたけど、布団の上でくつろいでいる姿や雨の中をお尻を走る姿などはなかなか様になっていた。あぁ、着物の男よ! 悲しき着物の男よ! そして劇終には、坂本竜馬の死の真相が明かされる、ぎゃふん! トータス松本、超ちょい役!!!
しかし、鈴木京香の歩く姿は、ほんとうに綺麗でした。腰で歩くたぁあのことだね。米倉涼子に教えてやりたいもんだよ。
以上、初心者向けってことで(というより私が初心者)。
2003.5.14
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