さて、このキモノミチ、実用コラムというつもりで書いてるわけではないのだが、どうもどういう経緯である着物が自分の箪笥にやってきたかというお話が多くなってくる。女性は買い物が大好きだけど、こと着物となると値は張るし、また、実は結構嵩もある。最初のうちは、とにかく数が欲しくてそろえたくて丈が合うものがあれば片っ端から買っていたが、二度目の冬ともなれば多少目も肥えてきて、本当に長くつきあいたいものだけを吟味して(嘘、ほとんどが雷に打たれたような判断力で)買うようになってくる。古着もどこまでが値段の折り合いをつけるべきものか、だいたいわかるようになってくる。もちろん、それまでにお金も遣うし、勉強もするのだけど。
さて、綿薩摩のお話を。
銀座壱の蔵で綿薩摩の古着を羽織らせてもらった。丈はたっぷり、裄もたっぷり、八掛けは黒く、薩摩の絣はあくまでも細かく細かく。昭和三十年代のお父さんたちが家でくつろぐときのイメージの着姿。深い絣の藍色はおっとこまえで、綿薩摩の手触りは綿そのものの柔らかさ。しっとりしていて、体に気持ちよくまとわり、あたたかい。手仕事のあたたかさを直に感じることができる。さらに自分好みの青い着物。「あぁ、おねいさん、これをあたいに売って頂戴っ!」と叫びそうになったのだが、実は、ちょっと、お高かった。そりゃぁもう古着にしてはお高かった。絣の柄は本当に細かいもの。その技量を買うとなればこのお値段、ということだったのかもしれない。お金の算段をどうしようかと逡巡しているうちにどなたかの手に渡ったようで、実は、少しほっとした。
しかし、あの手触りだけは忘れらない。「薩摩」の文字を呉服屋で見つけると、触らせてもらい、胸を高鳴らせてはまた悩む。銀座の呉服屋さんでも、無地の薩摩を仕立ててもその古着と同じ位のお値段で買えることがわかってくると、そう慌てなくなってきた。
薩摩絣といえば、上野の森で西郷さんが着ている井桁の絣が一般的なイメージだと思うのだけど、現在は綿織物の中でも最高峰のものだといわれてるそうだ。薩摩絣は薩摩の名がついているけれども実際に織られているのは、宮崎県の都城付近、東郷織物の永江明夫さんという方が有名で、私もこの方の名前くらいは知っている。
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羽織も羽織らせてもらいました。 |
そんな矢先に久米島に行き、久米島紬を買ってきて、青山のえり華さんに仕立てに出した。数週間後それを受け取りに行き、そこで出会ったのが・・・その永江先生のサインが入ったラベンダーブルーの綿薩摩。永江先生のお名前を見ただけで腰を抜かしそうになりました。ぎゃっ、なんでまたこんなところで出会っちゃうんだろう、と。
この綿薩摩、微塵格子というもので、細かい細かい格子が折り重なっている。方眼紙のさらにさらに細かい格子。ラベンダーブルーといわれても遠くから見たらグレーの着物、近くで見ると顔映えもよい明るい薄紫色。さらに値札を見てびっくりした。「かっ、買いますっ、これ買いますっ!」と即決したくなるお値段。
というわけで、現在お仕立て中です。ついでに草色の八重山ミンサーの八寸名古屋も買ってしまいました。これがまた、久米島とあわせるとベストコーディネート大賞をもらっちゃうような素晴らしい色合いなのです。綿薩摩にもとてもよく合うし。いい買い物ができました。この秋は出会いに恵まれました。
一枚増やして一枚減らす、その繰り返しで箪笥を精錬していくのでしょうね。
あぁ、これがキモノミチってやつだったのか!
2004.11.10
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