文庫本、あらまほしきは新潮文庫。新潮文庫しか認めたくないくらい、文庫といえば新潮文庫。抑えといえば高津、中継ぎといえば岩瀬、ビールとくれば黒恵比寿、と昔から相場が決まっております。
それはさておき青木玉の「幸田文の箪笥の引き出し」。母と娘のリアルなきもの関係。この親子のばあいは、たまたま、二人とも文筆業だったから、このような関係が明るみになったわけですが、名もなきふつうの多くの家庭で、これに似た伝統があると思うのですよ。長野の山奥の田舎の我が家でもそれがあるくらいですから、都会であればなおさら、でしょう。
どういうときにどういう着物を着るべきか、どういうときに着物を誂えるべきなのか、そういった実利的なことも学べる大変面白い本です。幸田文の、青木玉の、着物姿の写真がまたかわいらしくて、勉強になります。江戸の女の着物姿だなぁ、と。
よく殿方が、「スガヌマさん、最近着物着るんだって?」と聞いてくれるのですが、実際に着物姿をあらわすと、あれ?という顔をされることがあります。
そういう方は、地が桃色や黄色で、上前の下、股のあたりから裾に向かって、御所やら牛車やら御者やらがうろうろしていたり、松やら砂浜やらの絵が描かれているようなものを想像されていたのだと思います。あるいは、そこまでいかなくても、そういったやわらかーい色の、やわらかーいシルエットの、かわいーい柄が上から下に散った着物姿を想像していたのではないかと。
そういう着物は、お出かけ着の最高峰「訪問着」や「付け下げ」というもので、そんじゃそこらの自営業が「たき下」さんや「松玄」さんにゴハンを食べにいくときに着るようなものじゃないんです。
ちっちっちっ。私が着るのはそういったやわからーいものはあんまりないんです。だいいち、たいした場所にでかけるわけでもなく、そこらを歩くにちょっと気楽なもの、という考え方ですんで普段着用の紬が多くなってくるのです。その紬が、また、足を踏み入れればいくらでも大変な目に遭うことができる世界のようですが。
今一番稼動してるドラゴン着物は、木綿なので梅雨時でもざくざく着て歩くことができるものです。「あっ、雨大丈夫ですかっ!」と心配してくださいますが、そういうあなたの麻のジャケットこそあたしゃ心配です。
話が長くなりましたが、私の頭の中では、やわらかーいかわいらしーい印象のきものは京都の女性のイメージがあります。織りのシンプルな柄のきものは、江戸の女性のイメージです。この本の中におさめられている着物姿の写真を見ると、江戸の香りを感じます。西本願寺(だと思う、全然根拠なし)で、鈍色に染めた紬を着た写真がありますが、とても渋くて素敵。帯や色も、あぁ、江戸っぽいなぁ、と。見る人が見たら、全然そんなことないわよ、と言われるのかもしれませんが。
2003.06.24
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