八丈紀行その2 観光編1
当日は東京は曇天。八丈島へのフライトはわずか35分。伊豆七島の島々を眺めたいという方は座席は窓際のF席をオススメします。羽田、神奈川、静岡、大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、全てを窓から見ることができます。なお同じ眺めを帰りも満喫したい場合にはA席を取ることをお忘れなく。
窓のはしっこに八丈島らしき島が見えてきた瞬間、着陸態勢に入った飛行機がぐわんぐわん揺れ始める。飛行機に弱い私は酔いそうになるのだけど、まぁここから落ちても大した高さはないから大丈夫だろうと体を踏ん張り、着陸までの10分間神妙な顔をして我慢する。揺れる・・・まだ揺れる・・・。機内にいるときはわからなかったのだけど、八丈島は本当に風の強い島。パイロットによっては着陸を断念し羽田に引き返すことも年に何回かあるということで、本当にその瞬間はどうにかなってしまうのではないかと冷や冷やした。しかし、エアーニッポンのパイロットさんは本当に腕がよいようで、気がついたときには窓から住宅街を見下ろしており、昔の香港の空港みたいだなーと思っているうちに着陸。飛行機に乗って久しぶりにドキドキしました。
八丈島空港はとてもちっちゃな空港。空港に降りた私たちがまずしたことは、お土産屋さんのチェック。だってお土産屋さんの奥の壁に黄色い織物が売るほど並んでいるんですもの!というか、売り物なんですけどね。その黄色い品々の売ってるものと値段をひとしきりチェックしてから、ようやく観光マップを手にとり、食堂に入りビール飲みながらどこに行きたいか初めて検討しあう二人。島の中での距離感がいまいちつかめず、すべてが近いような気もするし、やはり遠いような気もする。縮尺がいまいちよくわからず、観光マップも、お金を落とすためのもの、真面目な風土記ふうなもの、一般的な観光マップなど用途や情報がまちまちで、その全種を並べて、情報を整理し、そこで初めて以下のようなことに気がつく。
1.八丈島は島を成すほどの大きな山が二つくっついた島で、そのくっついたあたりが島の中心部で、そこに空港や住宅地がまとまっている。
2.八丈島は地熱を利用した温泉がたくさんある。
3.八丈島は砂浜の海岸は少なく、すべてが荒磯の海岸。
4.八丈島はボーダフォンもauも使えない。使えるのはDoCoMoだけ。
おぅっ! 空港という割と電波が通じそうな場所でいきなり音信不通になった女が二人! ここらへんで第一歩のつまずきがあったのだが、それに気がつくのはその30分後。まずは旅館に行こうと、空港を出て旅館に向かって歩き出した二人がまず目にしたのは、目に見える斜面一面に植えられた赤いアロエの姿。ひぃぃっ。
まるで手塚治虫か諸星大二郎の漫画みたい!!! 沖縄や石垣島のような歴然とした、底抜けに明るい南の島という風景でもなく、かといって中途半端な熱帯さを演出しているわけでもなく、ここ独自の植生を直球で感じさせるうにょうにょアロエ畑。このまま私たちはどうなるのでしょうか!
(中略−イメージ画像でお楽しみください)
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飛行機はかわいい |
フリージア畑 |
カンナのような色 |
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ブーゲンビリアみたいなツツジ |
八丈島のキョン |
八丈富士 |
そんなこんながあって、ようやく旅館に向かいましょうかと、タクシーを呼んだ私たち。八丈島役場の前にやってきたタクシーの運転手さんはさわやかな好青年。この『シーズンオフ』に、『妙齢』の、『女二人』が、八丈島にやってくること自体ちょっと珍しいらしく、「何しにきたんですか?」と尋問をまず受ける。黄八丈を買いに・・・とも言えず、うみゃうみゃと答えておきました。この運転手さんをはじめ、島の方々はみなさんとても親切で、こちらが質問をすると、あちらからはとても丁寧に、期待する回答の5割増量した分の情報を返してくれる。路線バスとタクシーの便利な使いわけかた、ご飯のおいしいところ、タクシーの呼び方、島をわける坂下と坂上という概念などいろいろと有益な情報をゲットする。
わたしたちが泊まったお宿は、底土(そこど)地区の「やましたのお宿」というところ。このお宿系列の黄八丈関連の織物・お土産屋さんの「八丈民芸 やました倉の坂店」がすぐ近くにあり、これなら存分におみやげ物をチェックできるわということで選んだ旅館。その「八丈民芸やました」さんでは、機織の体験ができますし、ガラスの棚の中に丸まったもの(平たくいうと着尺)がたくさん並んでいます。ちなみにこちらのお店は、山下八百子さんの工房とは関係ないようです。
やましたのお宿のロビー(というのかな?)には、松本大洋の明るめなタッチで描いたようななおじさまがいらして、私たちを迎えてくれました。このおじさまとのいちいちの会話がその都度愛情とユーモアに満ちていて、いちいちニコニコしたくなる。
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明日葉うどん |
部屋に荷物をおき、まずはお昼ご飯をと、三根(みつね)地区の「合月」へ。八丈島空港グランドホステスさんオススメの定食屋さんで、ここで明日葉うどんを頂戴する。あぁうどんが隅から隅まで青い。明日葉独特のえぐみが消えていて、うまい。うむぅ。雑草程度のものだと思うのだけど、なかなか楽しいお味。当たり前ですが、私たち二人は相当な呑兵衛なので、当たり前のように中ジョッキがそこに・・・本当、何しに行ったんだろう、私たち・・・・。
おなかいっぱいになったら路線バスに乗って、中之郷(なかのさと)地区の黄八丈の第一人者・山下八百子さんのめ由工房(めゆこうぼう)に。ここは合月前の三根出張所前バス停から20分くらい、市街地からそんなに遠くはありません。
八丈島の路線バスは、島を時計まわりに回ったり、その先からさらに奥に行ったりいろいろですが、バスの料金がそんなに高くならなかったところを見ると、奄美大島のような島の広さは感じませんでした。バスは原則1時間に一本ですが、役場や空港で時刻表がもらえるので必ず手にいれておきましょう。また最終バスは思ったより早く、午後5時くらいで終わってしまうので、注意! 行ったはいいけど帰りはないよ、ということはよくあるみたいです(というかそれは私たちのことなんだけど)。
三原中学校前で下車して200mほど歩くとめ由工房に着く。花々が咲き誇るお庭の奥の工房からリズミカルな機織の音がする。あぁ、ここに憧れの山下さんの織物があるのね、と心ときめかせ扉をあけてみた。
勉強家のアンナさんと違って、私はそんなに八丈の織物のことを勉強していなかったけれど、山下八百子さんのお名前くらいは聞いたことがあります。以前、青山のえり華の社長さんが、「えへへへー、これいいでしょう。山下さんの黄八丈なんですよ。これはしばらく売らないつもりなんですよ」と自慢気に、そりゃぁ自慢気に、桐の箱から見せてくれた彼女の織物を見せてくれたことがあります。織物にはその土地の風景を連想させる力がありますが、その着尺は、溶けるように落ちていく夕暮れの太陽を受け入れる海のような色をしていました。「うーん、ここにも江戸から七十五里の、島の女のロックが!」とひどく感動したことがあります。その山下さんの工房に行ったのです。
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め由工房のお庭 |
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め由工房の中 |
工房の扉をあけると、10台ほどの機織機に数人が腰掛けている。それを囲むようにして、ここで織られた織物で作った小物がおみやげ物として並んでいる。鼻緒や帯締め、鞄といった着物に関する小物や、小銭入れ・札入れ・財布などいろいろな形のお財布、端切れを使った栞や楊枝いれなど、和服を楽しむ人もそうでない人も持てそうな小物がいろいろと並んでいました。
目指す織物は・・・・・ありませんでした。えぇ、着尺の形では、一反もありませんでした。こんなところでふらっときた旅人が手を出せるほど生やさしいものでは、ありませんでした、ありませんでしたとも。。。
がっかりしながらも、山下さんらしい色合いの、黄八丈の域を超えたあでやかな織物の鼻緒を見つけ、それがすげられた下駄と、「いつか絶対着てみたい!」とうならせる薄い桃色のつややかな小銭入れをお土産に買うことにしました。め由工房を出た私たちは、ずんずん道を歩いてゆき、なにやら集落の中を迷ってしまい、道を歩いて歩いていつのまにかえらいとこに出てしまいました。あぁ、なんてこと、ここはどこ、私は誰? 激動の八丈島紀行−その3、驚愕の乙千代が浜編に続く!
2005.4.25